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『黙阿弥オペラ』と『獅子の時代』

井上ひさし脚本の『黙阿弥オペラ』がNHKBSで放送されたのを見た。
この芝居は、小さな蕎麦屋を舞台に狂言作者河竹黙阿弥と彼が知り合った人たちの物語だ。
時代は嘉永六年(1853)から明治十四年(1881)までの28年間。

先日ケーブルテレビで見終わったばかりのドラマ『獅子の時代』の舞台となった時代と重なっているのが興味深かった。
『獅子の時代』は1980年NHK大河ドラマ。
『黙阿弥オペラ』の劇中で柳橋の芸者になった捨て子のおせんがパリの万国博覧会に行くが、『獅子の時代』はそのパリ万国博の場面から始まる。放送当時、フランスロケを行ったことが話題になったのを覚えている。

幕府代表に随行していた会津藩士(菅原文太)、イギリス留学中の薩摩藩士(加藤剛)、芸者おもん(大原麗子)の3人がパリで出会う。日本にいたなら知り合う機会が無かっただろう3人が、外国で出会って特別な親しみを感じるようになる。
彼らを中心に幕末から明治初期にかけて激動の時代が描かれる。
万国博の年=明治維新の1年前(1867)から明治22年(1889)までの物語。

脚本は山田太一。
大河ドラマには珍しく主人公は架空の人物である。
菅原文太は幕軍で負け組。歴史の裏街道を生きていく。
加藤剛は勝ち組で権力者サイドにいるが、理想を追いすぎて現実とのギャップに悩む。
登場人物を巧く設定してあって、会津の白虎隊、函館五稜郭の戦い、西南戦争など、みんなが知ってる明治維新前後の事件をちりばめながら、施政者側と庶民の立場が並行して語られる。舞台はフランスのほか、国内でも鹿児島から北海道に及ぶスケールの大きさで、視聴者を飽きさせない。

リアルタイムで見ていた時は正直それほどおもしろいと思わなかった。
今回、ケーブルTVで毎日放送されたので、1年分51回を10週間ほどで見終わった。一気に見るとめっぽうおもしろかった。背景となる時代の流れは史実に沿っているが、主人公が架空の人物なので(前に見たといっても細かいところは忘れたり、見逃したりしているため)物語の展開が読めないのも、通常の大河ドラマと一味違う。

西欧諸国と肩を並べて不平等条約を撤廃するべく、文明開化の理想をかかげて幕府を倒し、明治新政府が建てられる。しかし、徳川幕府がなくなったからといって新しい国家がただちに出現するわけではない。最高権力者が将軍から天皇に変わっただけでは、ダメなのだ。ドラマを見ていると、維新から10数年過ぎても市井の人々は江戸時代の意識を引きずっている。日本が近代国家に変わるには、多くの時間とさまざまな試練が必要だったことがよくわかった。

時代劇でも幕末ものは、あまり好きではなかったのだが、今回の『獅子の時代』は歴史の大きなうねりを感じさせる興味深い物語だとおもった。

西洋の制度や文化を形だけ真似ても、民衆にそれを受け入れる素地がなければ、意味がない。この課題は『黙阿弥オペラ』のモチーフのひとつでもある。オペラの台本を書くように命じられた黙阿弥は、「それは見物衆が見たいものじゃない」と言って拒否する。『獅子の時代』で描かれた西洋に学んだ裁判制度や議会制度、憲法制定など、新政府のつくるものが一般の民衆とは乖離していく過程と重なる。

同じ時代を背景にしているこの二つの物語を、あまり間をおかずに見ることができたのはよかったと思う。


『黙阿弥オペラ』は定評のある井上作品だから、私が指摘するまでもなく優れたところはたくさんあると思うが、一番すごいなと思ったのは、わずか3時間程度の芝居で、30時間以上の大河ドラマで描かれたのと
同じぐらい物語の背景となる「歴史の大きなうねり」を感じさせるところだ。

芝居で見ていると、セリフの量は膨大で、いろいろ聞き逃していそうな気がする。文字でも読みたくなって本を買った。新潮文庫から出ている戯曲『黙阿弥オペラ』はあっけないほど薄い。


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